研究科長の挨拶

大学院研究科長 熊谷 純
近年我が国では急激な高齢化,少子化が進行しております。地方ではとくに高齢者の比率が高まり,もともと大家族の多い土地柄であっても過疎化が進行し,一人住まいの高齢者が増えておりま す。医学の進歩,医療の高度化は眼をみはるものがあります。例えば整形外科の領域でもかつて2カ月の入院を要した手術が,2-3日で帰宅できるような技術が開発されております。加えて社会保険制度の変更に伴い,医療のしくみが変わりつつあります。
このような社会,医療の変化の中で保健医療の役割は益々大きくなっております。初期の病院での治療に留まらず,継続した地域でのリハビリテーション,あるいは住民の健康維持,社会活動参加のためにその果たすべき役割は年々増加の一途をたどっております。従って身につけるべき知識,技術も日々進化しています。
山形県立保健医療大学ではより高度な知識と技術を備えた専門職の養成を目的として平成16年に大学院(修士課程)を開設しました。保健医療学研究科の中に看護学分野,理学療法分野,作業療法分野を設け,比較的小規模な大学であることのメリットを生かして,3分野合わせて約50名の教員が『大学全体で学生を支える』ことをモットーに大学院学生の研究指導を行っております。
大学時代に教わったことをもっと深く知りたいという希望,指導教員の専門的な研究に共鳴して疾患の病態に迫りたいという意欲,あるいは大学卒業後に臨床現場でもっと効果的な看護,リハビリテーション治療ができないものかと葛藤した経験から,自分自身で納得できる解答を得たいという思いを胸にさまざまの方々が入学してきました。そして密度の濃い2年間を送っております。
最近では健康寿命の維持,延伸を目的として大学をあげてフィールドワークを行っております。それは地域の高齢者を対象とした上肢,下肢の運動能力,歩行能力などの経時的変化の調査,山形県と共同で開発した介護予防体操の開発などです。そのほか姉妹校であるアメリカ合衆国,コロラド州のコロラド大学,コロラド州立大学との共同研究も進めております。
大学院の学生の皆さんには在学中に是非身につけてもらいたいことがあります。それは『被批判力』というものです。これは私の造語でありますが,研究の過程でのさまざまなプレゼンテーションの機会に自分の考え方をまとめ,他の人々に納得させる技術はもちろんのこと,議論の中で受けるさまざまな批評・批判の本質を見抜き,妥当なものは受け入れ,反論するべきところには適切に反論するということを判断する能力のことをいいます。討論は意見のキャッチボールを通じて考え方が磨かれ,混沌としていたものを解決の方向に導くことがその目的の一つですが,大学院で身につけたこの『被批判力』はコミュニケーション・スキルと通じるものがあり,将来研究者の道を選ぶ場合はもちろんのこと,臨床の現場でも患者さんのケアやさまざまな職種との協同作業の場において必ずや役立つと信じております。
多くの方々が保健医療学の研究に興味を持ち,地域に立脚した,あるいは国際的な視野に立った研究の門を叩いてくれることを教員一同願っております。
